2023年度読書会記録
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| 回 | 開催日 | 本 | 著者 | 店 | 幹事 |
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483 |
28/12/23 |
『灯台の響き』 | 宮本輝 | 兼平鮮魚店 | 中島久代 |
| * 2023年納めのKeysには、東京のKさんが帰福、加えて大学の研究室のS先輩も参加、納めの読書会に相応しい、作家と作品をめぐってコメントが飛び交うKeysとなりました。宮本輝の『ドナウの旅人』や『錦繍』と、最近の『田園発 港行き自転車』や『灯台の響き』の違和感をどう捉えるか。遡って、先月の『鍵』の谷崎の文体と棟方志功の版画の組み合わせが与えるインパクトは何か。谷崎、三島の再来平野啓一郎、ノーベル文学賞を取れない村上春樹、この3名の文体とは。異論もあるが、議論が楽しい、Keys原点の夜でした。(H. N.) * 中華そば屋を朝から晩まで夫婦二人で切り盛りし、全てを知っているはずの妻の急死。引きこもる康平が「神の歴史」から妻の謎「灯台巡りの絵葉書」を手にする。康平は一歩ずつ動き始める。謎解きと自らの灯台巡り、子供や友人など様々な人たちとの関わりが一層深くなり、店を一人で再開する意欲を得る。最後は日御碕灯台の雄大な景色が、神のように人々の前途を照らしている。 (N. N.) * 40年前に太平洋を縦断する50日間の船旅をした。海上で灯台があることを知るのは夜になってから。日中は空と海の色に混じりその姿に気がつかなかった。そんな灯台のことを「動かず、語らず、感情を表さず、何事にも動じない、…多くの苦労に耐えて生きる無名の人間そのもの」(文庫本p335)と主人公は語る。日が落ちると点灯して航路を照らす灯台のように、足下がおぼつかない人や道に迷っていたりする人に灯りをともす人間に、私もいつかなれるだろうか。(H. K.) * 1960年(昭和35年)4月の大学入学以来、連日の安保闘争のデモに参加していた日々は、それなりに「新しい生活」の充実感に満たされていた。6月15日、デモに参加していた東大生樺美智子の死は、厳しい一つの現実を私に突きつけた。夏休みに入って、私は「日御碕灯台」に旅した。なぜそこを選んだかは覚えていない。下関の山奥から福岡の地に出てきたことは、私にとっては外界への大きな一歩であった。そしてこの出雲への旅は、第二の大きな一歩であったと言えよう。断崖に打ち寄せる日本海の荒波と空気を切り裂くように舞う無数のウミネコの姿と鳴き声は、人間界とは別個に存在する大きく厳しい自然界があることを教えてくれた気がする。この小説の主人公にとっては「日御碕灯台」は終着点であったが、私には8年後の(アメリカからの帰路)二週間の太平洋横断の船旅の出発点であった気がする。(M. Y) |
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482 |
25/11/23 |
『鍵』 | 谷崎潤一郎 | ホテル日航福岡 カフェレストランSERENA | 山中光義 |
| * 夫婦の性的嗜好の異常さを赤裸々に、お互いの日記の盗み見で、より妄想を膨らませ死をも畏れなくなる。暮らしぶりやファッションなどの生活環境は徹底して品がよく、その相対性に魅力が増す。また、主観のみの個人の日記という形に、最後に客観的な視点を入れ、自虐的でコメディ的なオチをつけている。谷崎潤一郎という作家が晩年に書いた作品と考えると凄いとしか言いようがない。(N. N.)
* 挿入された59点の棟方板画について:身体全体の輪郭、眼、鼻、口、乳首、その他のポイントのみを黒く、それによって、横たわる郁子の裸体は純白で尊い「女人菩薩」を思わせる、しかし、他方で、「生れつき体質的に淫蕩であった」ということを匂わす場面では全体が真っ黒で、各ポイントのみが白く光っているように見える。最後の数ページで明かされるように、「夫の死をさえたくらむような心が潜んでいた」彼女は、紛れもなく、19世紀末から20世紀初頭の世紀末芸術・西欧文学において好んで取り上げられたモチーフであるファム・ファタール(仏: femme fatale)、男にとっての「運命の女」(=「男を破滅させる魔性の女」)に属すだろう。人間の中に潜む二局性か、、、。付け加えるならば、新婚旅行の初夜の場面で、眼鏡を外した夫の顔、「アルミニュームのようにツルツルした皮膚」にゾウッと身震いしたとあるが、この場面では、外れた眼鏡だけがポツンと彼女の下腹部に放置されている。棟方の見事なユーモアが表現されており、陰湿になりかねない内容に一服の清涼感を与えている、と感じた。 (M. Y.) |
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481 |
28/10/23 |
『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』 |
川上弘美 |
休会 |
渡邊稔子 |
| * 還暦を迎え、社会的にはひとつの区切りをつける時期でありながら、個人的にはこの物語のような、ふわふわした関係性の中で生きています。「結局、中学生が少し複雑になっただけか…」作中のこの台詞が代弁してくれたように感じました。このままでいいと背中を押してもらったようです。 (T. W.)
* 60代で年齢的に近く、久しぶりに会った友だちからコロナ禍での出来事や感じたことを、たっぷり聞かせてもらったような読後感。私たちの年齢では帰国子女は少数派。それぞれの国での日々の生活で、幼いながら「違うという感覚」を鋭敏に感じてしまう。様々な人物が登場するが、年齢が重なることで、さらに生活の事細かな部分で感じ方の違いを自認するようになったり、容認できるようになったりの自問自答を楽しめた。 (N. N.) |
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480 |
30/9/23 |
「52ヘルツのクジラたち」 |
町田そのこ |
休会 |
末信みゆき |
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(幹事より)本を通して、毒親の存在をリアルに体感しました。逃げ場のない子どもたちを親から引き離すことができたとしても、それで幸せになれる訳ではなく、心の傷は消えないのだろうと思うと辛いです。 |
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479 |
26/8/23 |
「デジタル・ファシズム」 |
堤 未果 |
休会 |
勝野真紀子 |
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(幹事より)前々から手に取ることを何かしら自分の中で躊躇っていた本であったが、前回「本心」(平野啓一郎著)にインスパイアされ、聞こえの良い「デジタル化」へ猛進している世の中とは一体何なのか?その側面でも知れたらと思い選びました。 |
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478 |
/7/23 |
「本心」 |
平野啓一郎 |
サケサカナ太郎坊 |
千葉敦子 |
| (幹事より) VF、仮想空間、自由死等々、今の私たちにはリアリティーを感じえないものですが、それが普通に受け入れられる世の中が果たしてやってくるのでしょうか?不安を語りつつ、生の水ナスの美味しさを肴に楽しいひとときを過ごしました。 * 私は人生の折々の決断の時には、「死ぬ時に後悔するかしないか」を選択の基準としてきたので、「あの時、もし跳べたなら」という悔いは無く、「死の一瞬前」をあるがままに受け入れることができるのではと期待している。残るは、「最愛の人の他者性と向き合う誠実さ、優しさ」をテーマに、残された人生を全うできるかどうかだろう。 (M. Y.) * まさに巧妙な時代設定。20年後に起きていること、A Iの凌駕、超高齢社会(そこに「自由死」というショッキングな選択肢)、格差や分断、人工授精(生まれた子どもの悩み)など、今私が不安を感じている問題を具体的に炙り出してくれている。(そう遠くないから恐ろしい) 登場人物たちの日々の生活の中で感じる繊細な感情の浮き沈みを、実に丁寧に表現できてしまう平野啓一郎の感情の豊かさと語彙の力は圧巻でした。そして私が救われたのは、主人公など苦しんでいる青年たちの再生、これから生きようとする力を描いてくれたことに感謝。私も若い子どもたちの生きる力を信じるのみ。(N. N.) * 近い将来こういう世の中が本当に現実となっていくのであろうか、、、ヘッドセットを装着すれば、時間や空間をも越えた「死後さえも消滅しない」未来を誰もが手に入れられる世界。近未来の仮想社会を想像することは容易ではないが、背景には「死の自己決定」や「貧困による格差社会」といった現実社会で直面している様々な問題を容赦なく突きつけられており、あくまでも現在と地続きな世界にある近未来であることは確かかもしれない。「分人」という著者の観点から読めば、関わっていく人々の変化に伴い主人公の中で占めていく分人に変化が生じていくことが一筋の光というか、やはり生身の人間との関わりの中で未来をどう切り開いていくか、、、そんなことを考えさせられた一冊でした。(M. K.) * あらゆる想定が「仮想現実」として可能になる時代にあって、表題にある「本心」とはどういうことかを考えました。自分でこれが自分の本心だと思っていたことも、強制的な刷り込みではないか。他者との関係に依存したかもしれない。状況が変われば心も変わるのではないだろうか。全くもって「本心」は影響を受けやすく不確かなものだけれど、その心が決める「自由死」について同意できたら、「最愛の人の他者性」を受け入れたことになるのかなと思いました。(H.K.) |
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477 |
24/6/23 |
『愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集』 |
佐々木良 |
一 はじめ |
中島久代 |
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(幹事より) |
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476 |
21/5/23 |
『銀河鉄道の父』 |
門井慶喜 | 喜友 |
中竹尚子 |
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* 今回「父」というフィルターを通しながら語られる「賢治」と家族の物語。妹「トシ」とのエピソードや没後その作品が認知された不遇の作家、という正直これまで私が抱いていた「賢治」像とは、はるかにかけ離れていて意外でもあったが、物語の随所に「賢治」という人物の片鱗が散りばめられており、最後まで興味が絶えなかった。Keysでも話題にあがった石集めに没頭する賢治「石っこ賢さん」の章、なるほど花巻の自然こそが彼の瑞々しい言語感覚と想像力を磨き、自然との交感を彼独特の表現によって後世に残すことになったのかも、、、なんて想像するのも実に楽しかった。(M.K.) |
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475 |
23/4/23 |
『芽むしり仔撃ち』 |
大江健三郎 |
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金城博子 |
| * 大江健三郎氏二十代の作品とのこと。なんと冷徹で客観的な描写。心深くに突き刺さる不快感。場面は戦時中だが現代社会の人間性に潜むものが描かれている。感化院の子どもたち、疫病、朝鮮人、脱走軍人に対する恐ろしいほどの村人たちの閉鎖性、虐待、暴力。僕や弟、李、女の子に芽生える人間性に対する救いを悉く打ち砕いて小説は終わる。この小説は決して映像で観たくない。しかし、感性をより鋭敏にしなければ、このような惨状に加担してしまう可能性があるという恐怖も私は感じた。(N.N.)
* 読み始めた途端に懐かしい文体の香りが漂ってきた。今回の本は1958年に書かれているが、大学入学時(60年)の安保闘争から3年後の『性的人間』、その後長く続いた大学紛争時の『万延元年のフットボール』(67年)等々、大江は、政治的人間と性的人間の在り方を絶えず突き付ける存在であった。男女を問わず、その性器を「セクス」と表現し、人間が呼吸することと同次元に配置する発想は、その後の軟弱な小説群とは一線を画すものであることが、あらためて新鮮であった。(M.Y.) |
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474 |
18/3/23 |
『私の恋人』 |
上田岳弘 |
月のしずく 天神大丸店 |
末信みゆき |
| * 作家の世界観の大きさに圧倒されます。面白かったのは、二周目のイデオロギー間(アメリカとドイツ)の闘争、その終焉がユダヤ人収容所や日本への原爆投下。そして三周目、人類を凌駕する「彼ら(人口知能)」の出現。でも、その前に我々が突きつけられている現実、ロシアによる領土侵攻がある。闘う対象は誰にもわからないが、抗うべき時には抗わないといけない。そのように突きつけられた作品でした。(N. N.)
* クロマニョン人まで遡って人類の祖先の知性がどのようであったのかということは想像も及ばないが、私が目撃した中で最も古いアイルランドの先史時代の遺跡「ニューグレンジ」(紀元前3100年から紀元前2900年の間に建設)、「1年で最も日が短い冬至の明け方、太陽光が長い羨道に真っ直ぐ入射し、部屋の床を短時間だけ照らすように建設されている」、その数学的知性と言い、下って、古代エジプトのツタンカーメンと黄金のマスク(紀元前1341年頃 - 紀元前1323年頃)、イングランドのストーンヘンジ(紀元前2500年から紀元前2000年)等々、古代人の知能の高さには驚嘆するばかりである。いや、身近にもある。王墓など弥生時代(紀元前9、8世紀から紀元後3世紀ごろ)の遺跡が発掘されて展示されている「やよいの風公園」が毎日の犬との散歩コースであるが、人間より1,000倍〜10,000倍優れていると言われる犬の嗅覚、聴覚は、人間がその合理主義から失っていった本能的能力をクロマニョン人時代のまま持ち続けているという証拠であろう。滅亡の予言の中に救済の光を見出せない中、せめてそばにいる犬に寄り添って、少しでも原始の想像力を取り戻したいという気持ちであった。(M. Y.) |
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473 |
25/2/23 |
『ライオンのおやつ』 |
小川糸 |
米と葡萄 信玄酒店 |
渡邊稔子 |
| * 雫がレモン島に来て一月超の短い間、様々な出会いにより死と生に向き合い、揺れながら強くなっていく様が心に沁みました。死に際はマドンナのような方にそばにいてほしいですね。日曜日午後三時のおやつ、自分は何を求めるのか考えてしまいました。(N. N.)
* それまで生きてきた日々を振り返り、穏やかに日々を過ごす。最期の時を考えるのは、つまり今をどう生きるかなのでしょう。レモン島に行けなくても、自分にとってのライオンの家を見つけたいと思いました。最期のおやつは、ぜんざいをリクエストします。ことこと小豆の煮えるにおいが、幼い頃の大きな幸せでした。(T. W.) |
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472 |
21/1/23 |
『あちらにいる鬼』 |
井上荒野 |
暖(はる) |
勝野真紀子 |
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久しぶりのリアルKeysならではの会話の醍醐味、嬉しい時間でした。 |
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